Nostalgic Ha Noi in Viet Nam  ハノイの印象
          

それにしてもこの懐かしさは一体何処からくるのだろう

記憶の隅に眠る何か、私が忘れてしまった大切なものがここに
はある。人々は幾多の侵略や戦争の傷を乗り越えた誇りと強さ
に溢れ、家族や日々の営みを愛し逞しく慎ましく刹那的だった。
そして目まぐるしい発展の途上にあっても、生きる上で根源的
に大切な事が何であるかを本能で知っているような気がした。

何よりも子供達の屈託のない明るい表情が素晴らしい。
それはきっと嘗ての日本だったのだ。

ドンスアン市場にいる時、何の前触れもなく屋根が凄まじい音
をたて出した。入り口に目を向けると、通りが雨で煙っていた。
スコールだ。惚れ惚れとするほどの降りっぷりの見事さ。
映画「夏至」の延々と降り続くスコールのシーンがふと過る。
ポカンと見とれながら雨宿りしていると、路地の向こう側から
又、あの強い日差しが唐突に街を照らし出した。

今、私は確かにこの地にいて今を生きている筈なのに、暑さで
霞が立った様な通りのそこここに歴史に刻まれた時の淀みが
あり、人々の屈託のない明るさと逞しさの影に失われたもの達
の蜃気楼を見た様な一瞬があった。

そんな風に感じるのは旅人の感傷だよと言われてしまえば
それまでなのだけれど、私にはそう感じたのだ。

ハノイは何と緑が豊かな街なのだろう。群れをなし絶え間なく
通りすぎるバイクの多さを思えば、考えられない程に葉の色が
美しい。
しっとり水分を含んだ街路樹が、昼下がりの歩道に濃い葉影を
落とし、亜熱帯気候の熱気と激しいスコールが作り上げた瑞々
しい深緑は、点在する湖に美しく映えていた。
街の中心にあるホアンキエム湖の水辺では涼を求め寛ぐ人達
や、木陰で熱く寄り添う恋人達を何度も見かけた。

やがてとっぷりと日が暮れると、木々の深い陰影がメイン通り
や路地裏の奥行きを更に深めて、街は又違う表情を見せてく
れる。ライトアップされたオペラハウスや通りを抜け、路地巡り
する夜の散歩は、子供に戻った様にワクワクする。

点灯された電飾の柔らかく優しい光りに照らされた街の様子
は、異国の地でありながら心に古くから馴染んだ歌を聴いた
様な、穏やかな懐かしさに満ちていた。
Ha Noi la rat dep. Toi se di Ha Noi.  
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